テーブルエッセイ
質的研究とテキストマイニング
7年前の2010年、あるプレゼンテーションを行った。その内容が採用されることはなかったのだが、テーブルの原点の1つは、その時に参照した理論や実際に行ったリサーチにあると考えている。現在では、より発展したり、当前のことになったりした事柄が含まれてはいるが、本サイトのリニューアルに当たってそれらを振り返ってみたい。
リサーチという言葉は多くの場合、何らかの数量化とセットで考えられる。表組み、パイグラフ、数値の推移を示す折れ線や棒グラフ、etc, etc. しかし私たちは、こうした「量的研究」では明らかにできない世の中の姿を浮かび上がらせたいと考えていた。数量的なアプローチが有効なのは、なにを調べるべきかという「問い」が明確な場合だ。そして今日の複雑化した社会において、「問い」 は、必ずしもあらかじめ明確ではない(※)。
※この頃すでに「オリエンテーションがない」「何をするかから一緒に考えて欲しい」といったクライアントの依頼が常態化していたと記憶している。「問い」ならぬ「問い合わせ」である。こうした場合には必然的に、プレゼンテーションはリサーチを含むことになる。
となれば、リサーチに求められるのは、正しい問いとは何かを見つけ出す「問題抽出」や「課題設定」 の方法であろう。かつまた、ありのままの世界に分け入って、そこから有意味なデータを引き出す技術であろう。そう考えた私たちは、理論的支柱として質的研究を、そして実践的手法/ツールとしてはテキストマイニングを採用することにした。
質的研究とは、量的には捉えられない人間の生の現実(リアリティ)を掴み取るための、社会学における方法論の総称である。いまでこそ相当量の関連書籍が刊行されているものの、当時は手探りでプレゼンに組み入れる必要があったことを覚えている。「研究室でなく、人々の生きる日常の中でモデルを考えよう」「対象を数値のみに還元せず、開かれた視野で、その複雑さや豊かさを捉えよう」といった質的研究の主張は、マーケティング、コミュニケーション、デザインといった事柄について当時の私たちが考えていたことと、分野は違えど非常によく合致していた。
この理論を、インターネット上の生活者の肉声を傾聴するためのモデルに組み立て、仮説形成とテキストマイニングによって「見える化」したリサーチパートが、プレゼンテーションのハイライトだった。質的研究(理論)とテキストマイニング(手法)の掛け合わせは、リサーチパートに定量的・定性的、双方の特徴をもたらしてくれた。
テーブルはその1年後に、株式会社として正式に発足した。タグライン —業務内容を簡潔に凝縮したフレーズ— は“Communication Architects”である。2010年以前から、折に触れては口にしてきた「コミュニケーションの回路を設計する」といった表現が、2017年現在、ごく当たり前に理解される時代になってきたことを実感している。